学部長便り2012年1月号

学部長便り2012年1月号

2012年9月4日

新年号 「卒論」と「天使」

 新年を迎えました。しかし、毎年私にはクリスマスも年末も新年もありません。なぜなら、学生の卒業論文・修士論文提出直前のこの時期は、一年で一番多忙だからです。四回生のほとんどは、卒論執筆のため正月に帰省もせず、研究室に籠もります。これを「越冬隊」と呼ぶのですが、今年も多くの越冬隊員が大学で年を越しました。私は正月の二日に大学に行ってみたのですが、研究室のホワイトボードには、誰が描いたのか神社の絵が描かれており、「出雲大社・日ア分社」と書き添えられておりました。初詣はこれを拝んですませたのだそうです。私も手を合わせみんなの卒論完成を密かに祈りました。おみくじまで作られており、ひいてみると「大吉」でも「小吉」でもなく、「謙吉」という意味不明のおみくじです。たずねてみると、学生のお祖父さんの名前らしく、ハズレくじだとのことでした。

 卒業論文は、学生にとって大学時代の最大のイベントであり、一年間かけて調査し、思考し、そしてそれを論文という形で言語化してゆくことになります。うちの研究室は、どの教員も厳しく、夏休みでも卒論ゼミがあるので、学生は休む間もなく研究に取り組まなければなりません。しかし、それだけのエネルギーを使うわけですから、成果も大きいわけで、卒論執筆を通じて思考力や文章力において格段の成長を遂げることになります。指導する側にとって、それは何よりの楽しみでもあるのです。数年前に一人の女子学生がいました。彼女は性格もよく勤勉でした。しかしレポートを書かせると、文章も内容も稚拙なのです。普通はそんな学生でも、三回生になって頭角をあらわすとか、さすがに四回生にもなると優秀になって来たな、などという事がおこるのですが、彼女にはそんな幸せはいっこうに訪れませんでした。卒業研究にも真摯に取り組んでいたのですが、相変わらずで、合格できるような論文が完成できるのかハラハラしておりました。暮れも押し詰まったある日、彼女が卒論の一部を私に見せにきました。一読して、私は悲しみに襲われました。内容も文章もとてもよいのです。ああ、この真面目な学生も追いつめられて、ついに他人の論文を剽窃してしまったのか、と思ったのです。しかし、どう叱ろうかと思案していた時にふと気づいたのです。彼女が対象としている現代作家は、先行研究がほとんどなく、私が未読のものは存在しないのです。つまり彼女は自分で考え、自分で書いたのです。驚きました。別人が書いたとしか思えない変貌ぶりです。本人はきょとんとしておりましたが、思い切りほめたたえました。彼女の頭上に天使が舞う姿が見えるようでした。もちろん、彼女はそれ以降もよいものを書き続け、無事卒業となったのです。

 今年の年賀状で、何人かの卒業生が「学部長便り」読んでますよ、と書いてくれていました。ありがとうございます。ということで今月は卒業生の思い出を書いてみました。

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