学部長便り2012年3月号

公開日 2012年09月04日

3月号 「競歩」と「ラーメン」

 松江はまだまだ寒い日が続いています。そういう日には、やはりラーメンです。学生もラーメンは大好きで、私のゼミ生も市内の主なラーメン屋を制覇する試みを続けているようです。とりわけ大学近辺には多くのラーメン屋が集中しており、ラーメン激戦地帯です。昔からある「花さか」「塩や」「風風ラーメン」に加え「龍王」「和歌山ラーメン」「ラーメン大学」「竹ん子」などがオープンし、隣も向かいもラーメン屋といった状態です。それゆえ、なかには競争に負けてすぐ撤退してしまう店もあるので、私などは開店したらすぐ訪れることにしています。学部長たる者は西川津町のラーメン屋の歴史の語り部でなければいけないからです。

 しかし今回紹介するのは、大学から少し離れた所にある、山の中の幻のラーメン屋です。店の名は「うの花」。場所は、島根大学本庄農場の裏手あたりの福原町です。農道沿いにひっそりと立っているので、めったに人目にふれませんし、大学からでは車でしか行くことはできません。私がこの店を知っているのは、たまたま競歩の練習コースの途上にあるからです。三年ほど前に出来た時は、こんな所にラーメン屋が出来たと驚いたのですが、なにせ競歩の途中ですから立ち寄るわけにも行かず、いつも眺めるだけにしていたのです。険しく長い坂道を登り切って死にそうになった時に「うの花」は見えてきます。状況としては、ただ水が欲しいのであり、ラーメンなど食べる気もしないわけです。

 ただ、とある夏の日、魔がさしたのか、よほど気になっていたのか、「うの花」の引力に牽かれたのか、競歩のさなかフラリと店に入ってしまいました。それ以来何度も店に吸い込まれるようになってしまいました。店はカウンターが中心で十人も入れば満員です。おすすめは「うの花ラーメン」と「もやしラーメン」。前者は野菜炒めがどっさりのっけられた野菜ラーメン。後者は山盛りのもやしの上に秘伝の激辛味噌がのっかったもの。どちらも甲乙つけがたいおいしさです。店主のおばさんによれば、以前は宍道湖温泉で開業していたが、実家に戻ってオープンしたとのことです。

 店の後ろは深い山。周辺も林と畑ばかりなのですが、驚くべきは、いつも客がいるということです。ダンプの運転手さんや近所の農家の人が多いようです。農家のおじいさん達は早起きなのでしょう。私が昼頃に行くと、数人でワイワイお酒を飲んでいます。早朝から一仕事終えて、ラーメンと日本酒という趣です。ほどよく酔った頃に、ちゃんと農家の若奥さんが「おじいちゃん、そろそろ帰りましょう」と車で迎えに来たりもします。とてもいい感じです。トレーニングウェアの半パン姿で、しかも汗まみれの私などきっとよそ者の異端者なのでしょうが、おばちゃんはやさしく接してくれます。一度「なぜいつもそんなに早く歩いているのか。走らんの。」と言われました。うーむ、でも競歩だからねえ。

 

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