学部長便り2012年8月号

公開日 2012年09月04日

海は潜るものである   

  とても暑い日が続いております。松江でも、めったに見ることができないような青空と白い雲の毎日です。私は、暑さなんかに負けてたまるかと、毎朝ランニングを続けておりますが、おかげさまで真っ黒になってしまいました。くるぶしから下は真っ白で、足は真っ黒の状態を「部活焼け」という事を学生から聞きましたが、まさにそれです。あまりの黒さに、よく「海に行かれたのですか」と尋ねられますが、そうではないのです。

海と言えば、今年東京から島根大学に赴任された新人の教員が、松江の海の近さに驚いたという話をしておられました。車を20分ほど走らせると、眼前に日本海が広がっているのに感動されたとのことです。確かに、松江は海が近いですし、しかもきれいだからいいですよね。私が子どもの頃泳いでいた神戸の須磨海水浴場などは、潜っても視界ゼロに近い濁った海でしたが、島根の海には魚が泳いでいます。砂浜ではなく磯に潜ることの楽しさは、島根に来て初めて体験したことのひとつです。

「海の幸」などの作品で知られる青木繁という画家がいます。彼は、海中の様子を絵にするために、千葉の海に滞在し、潜水夫が装着する本式の潜水具を着けて実際に海底に潜りました。すると海中世界の素晴らしさに魅入られてしまい、絵を描くためという当初の目的を忘れて、海に潜り続けることになってしまいます。明治40年の『国民新聞』に発表された「滄海の鱗の宮(わだつみのうろこのみや)」というエッセイに、その時の様子が詳しく報告されていますが、〈海底の色彩の変化と曲直線の変化〉や〈種種の魚族〉や色とりどりの海藻に眼をうばわれたことが書かれています。考えるなら、テレビも映画も無かった時代ですから、人は海底の様子を見る機会もなかったのでしょう。ちなみに、青木繁はこの体験をもとに「わたつみのいろこの宮」という絵画作品を描いています。

本格的なスキューバダイビングでなくてもよろしい。水中眼鏡とシュノーケルがあれば、それで充分海中の面白さは堪能できます。岩の間に、色鮮やかなウミウシを見つけたり、海藻の中でひっそり擬態しているタツノオトシゴを見つけた時の興奮は今でも覚えています。そして島根の海はそれを可能にしてくれます。暑い日が続きますが、皆さんも一度海中世界を探訪してみましょう。「海とは泳ぐものではなく潜るものである」という名言もあるのですから。えっ、誰の言葉かって。知らないのですか。私ですよ、私の名言です。 

 

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