学部長便り2013年5月号

公開日 2013年05月13日

「ビブリア古書堂」に行こう

 

 三上延の『ビブリア古書堂の事件帖』シリーズの売り上げがすごいようですね。実際に読まれた方、あるいはコミック化されたのを読んだり、剛力彩芽主演のテレビドラマをご覧になったという方もいらっしゃるかもしれません。私は現在四巻まで刊行されている小説を全部読みました。

 個人的には、ライトノベル風味のところが気にくわない点をのぞけば、古書店を舞台とし、具体的な古書をめぐる事件が展開されるので楽しく読んでおります。第1巻では、太宰治の門人だった小山清という渋い小説家の『落穂拾い』が登場しますが、永らく絶版となっていた彼の小説が『ビブリア古書堂の事件帖』の影響で新しく文庫化される事になりました。それだけ影響力があることにも驚きますが、多くの若い読者が小山清を捜し求めたということも不思議な感じがします。その意味で、この作品を通じて、中学生高校生が古書や文学の世界に興味をもってくれるのではないかと期待してしまいます。十数年前に大ブームとなった京極夏彦の京極堂シリーズも作中人物の京極堂は古書店店主でしたし、これも少し前にベストセラーとなった有川浩の『図書館戦争』も図書館を舞台とした近未来SFです。若者の活字離れなんて事はいつの時代でも言われるのですが、逆に今時の若者は「図書館・古書・小説」といったキーワードで括れる世界を身近に感じているのではないかと想像しています。

 私も文学の講義で『ビブリア古書堂の事件帖』をネタにしますが、やはり学生の食いつきが違いますね。とりわけ共通教育で講義している「小説の構造」は、江戸川乱歩と宮沢賢治を読む授業なのですが、その両方が『ビブリア古書堂の事件帖』に登場するのでバッチリです。江戸川乱歩などは、第4巻がまるごと彼の作品をめぐって事件が展開するので、私が授業する前に相当予備知識を持っているわけです。あるいは逆に、授業で乱歩と賢治を読んだので、ついでに今話題の『ビブリア古書堂の事件帖』も読んでみるかという学生も出てくるでしょう。素晴らしい教育効果です。

 『ビブリア古書堂の事件帖』には、事件の中心となる書物以外にも、さまざまな書物が登場します。たとえば国枝史郎という昭和初期の作家がそれです。彼の書く時代小説は、幻想的でゴチック趣味に満ちあふれており、まさに「伝奇小説」の元祖なのですが、忘れられた作家の一人であり、その書物は入手困難です。私は学生時代、国枝史郎の書物を求めて古本屋をかけずり回った経験があります。その後東京の古書店で「角川文庫版国枝史郎全集」全28巻完全版と出会った時に本当に震えてしまいました。いずれ『ビブリア古書堂の事件帖』に登場する書物について、そのような体験談もおしゃべりしてみようかと考えているのです。

 

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