学部長便り2014年5月号 縦空間の町、小伊津 

学部長便り2014年5月号 縦空間の町、小伊津 

2014年5月2日

 先月号では新米ですがよろしくと言いつつ、名前を書いておらず失礼いたしました。四月から法文学部長に選出されました吹野卓と申します。専門は社会学です。あらためて、よろしくお願いします。 

 さて五月。ふと行った漁港のことを語らせて頂きます。
 先日、出雲市平田を通ったとき、ついでに海でも見ようかなと、「津」のつく地名の道路標識を頼りに日本海へ向かいました。辿り着いたのが小伊津という漁業の町でした。全景の写真を載せておきましたのでご覧ください。
 漁港特有の斜面に密集した町です。この斜面、写真で見るよりかなり急です。写真右下へ向かう細い道は全て階段になっています。左端にアパートが見えていますが、その屋上が奥の民家の一階ぐらいの高さになっています。
写真1

 港に面した町並みの写真も載せました。三階建ての家々が並んでいます。これは町全体に言えることで、中には四階建ての家もありました。もっとも一階部分は山側から見ると半地下になっていたりして倉庫的に使われていることが多いようです。
 町内に入れば細い路地が続きます。なにしろ高層民家の集落ですから、見上げると僅かに見える空に向かって幾重にも軒先が層をなしています。
 そんな路地を歩くと、とても不思議な感じがします。それはこの町が縦方向に切り取られた空間から成り立っていることから来る感覚のようです。地中海の中世都市で感じるような、日本の町としては珍しい縦の空間。宍道湖側の横の広がりが強い集落とは対照的です。
 路地の写真も載せておきました。中程の黒っぽく写っているあたりに商店があり、野菜などの食料品を売っています。この辺りがメインストリートなのかなと思いました。路地が交わる所にできた多角形の空間が、小さな広場のようです。こちらも写真をご覧ください。 
写真2.JPG

写真3.JPG

 後で調べてわかったのですが、小伊津漁港は甘鯛漁で有名だそうです。決して過疎などではなく、むしろ過密と言って良いのかもしれません。アパートが建っているのもその現れでしょう。ちなみにこのアパートには横の道路から橋が架かっており、いきなり最上階に入ることができます。アパートの写真でおわかりでしょうか。なお、最上階というのは山側から見ると四階、海側からみると六階になります。実は先ほど紹介した商店の上にも渡り廊下があり、路地を挟んだ向かいの家に繋がっています。このように、縦の町ならではの空中を横に結ぶ工夫もなされているようでした。
 町を歩くと、あちらこちらに甘鯛漁で使う延縄が入った丸い籠が置いてあります。行商でしょうか、何段ものボール箱を背負ったお婆さんが階段の道を降りていきます。走り去る猫の影も見えました。神社もあり、お寺や墓地もあります。周辺の崖には石垣を積んで作られた小さな畑も隠されています。地形に合わせて日々の暮らしのなかで形作られた町並みなのですね。
 一方逆に、町並みもまた暮らしを形作るものなのかもしれません。空中で向かい合う家々、生活の場としての路地と小広場、そして港。町の造りが人の繋がり方に何らかの色合いをもたらすこともあるのでしょうか。そんなことを想いながら歩かせて貰いました。
 小伊津はたぶん観光地ではありません。観光客づらをして、ウロウロするのは気がひける町です。とはいえ、暮らしのなかで創られてきた町並みに興味がある方は、遠慮がちに路地を通らせて頂いてもよいかもしれません。景観なんて偉そうな言葉は使わずに。

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