学部長便り2014年7月号 「内向き志向」、または思い出ばなし

学部長便り2014年7月号 「内向き志向」、または思い出ばなし

2014年7月3日

●フロリダ大学との学生交流
 先月、フロリダ大学の学生さんたちが法文学部に来てくれました。大歓迎です。
 フロリダ大学へは毎年うちの学生が短期留学で訪問し、フロリダの学生さんと一緒にボランティアをしたり、授業に参加したりしています。今回は初の短期留学受け入れで、法文学部の授業に参加したり、和菓子づくりに挑戦したりと交流を深めました。写真はそんな交流のひとこま。法文の学生さんたちも堂々と英語でコミュニケーションをしていました。最近の若者は内向き志向になっていると言われますが、島大生はなかなかやるのです。
 同じく先月は中国の山東大学の先生もいらっしゃり、学生交流協定の更新についての協議もしました。法文学部では特にフロリダ大学・山東大学、それと中国人民大学の三校と、専門科目としての学生交流を進めています。最近の若者は内向き志向になっていると言われますが、学生さんがどんどん外に目を向けてくれると良いですね。
フロリダ  


●内向き志向について
 さて、若者の「内向き志向」の件についてです。たしかに、グローバル化とか言われる一方で若い人たちの海外に対する興味や関心が薄れてきている気もします。しかし考えてみると、それも当然のことかもしれません。
 私の娘と息子も二十歳前後なのですが、彼らの育ってきた環境をみると、意外と外国についての情報が少ないように思われます。
 聴く音楽はJポップ、日本のドラマやバラエティを視て、読む小説も日本のライトノベルが中心だったのではないでしょうか。映画もジブリアニメなどが中心で、外国のものをあまり観ていないようです。これは、我々の世代とはかなり違っているようです。


●私が子供だったころ
 私がチビの子供のころ、「てなもんや三度笠」も視てはいたけれど、「奥様は魔女」とか「ミスターエド(馬が喋るやつです)」といったアメリカのテレビドラマもよく視ていました。そこで出会ったアメリカは、広々とした芝生に囲まれた郊外の白い家での生活でした。その家には、大きな車と冷蔵庫がありとても豊な国に見えました。
 「トムとジェリー」も忘れられません。ジェリーが荒らすテーブルには豪華な食品が並んでいました。穴の開いたチーズ、ロブスター、七面鳥、アイスクリーム、プルンプルンした透明なゼリーなどです。ブルさんが芝生の庭で焼く巨大なバーベキューの肉を「美味しそうだなぁ」と思いながら見ていたのでした。
 当時の子供にとって、外国とはすなわちアメリカで、そこはとにかく「豊かな国」だったのです。我が家はといえば、車も電話も無かったし、冷蔵庫はあったけど氷で冷やすやつだった時代です。
 チビの子供を卒業して少年となり、そして思春期へと移行する頃、読んだ小説の大半は翻訳もので、毎週何回もあったテレビ洋画劇場で大量の外国映画を観たものです。ビートルズはすぐに解散してしまったけれど、聴く音楽は英米のロックやフォークばかり。ヒッピー文化の影響も受けて、肩まで髪を伸ばしてヘアバンドを巻いたりしたものです。
 高度経済成長を遂げ日本も豊かになってきたとはいえ、若者にとって、文化は依然として輸入されるものだったのです。 


●若者はタコには憧れない
 このように、私たちの世代は、初めは海外=アメリカの豊かな暮らし、そして後にはそれに対する対抗文化のカッコ良さ等が、常に外向きの目を持たせてきたように思います。
 一方、先にも述べたように今の若い世代は意外と海外からの文化的な情報に触れずに育ち、輸入モノ文化への憧れを持っていないようですね。これは日本社会が経済的にも文化的にも豊かになった結果で、ある意味、誠に結構なことです。
 たしかにモロッコ産のタコやブラジル産の鶏肉を食べ、バングラデシュで縫製された服を着ているのですが、文化は、少なくとも若者文化は、輸入ではなくむしろ輸出するものと思われています。いくら大人たちがグローバル化だと騒いでも、若者たちの目が外に向かないのは無理からぬことだと思えるのです。

芝生
緑の芝生を駆けるトムさん(著作権切れ画像)


●緑の芝生の家
 チビだった私がテレビで視た緑の芝生に囲まれた白い家の世界について、もう少しお話しをしましょう。
 子供のころ、実際にそんな住宅地を見る機会がありました。サマンサが住みブルさんがバーベキューをしている、そんな住宅が並んでいました。
 場所は福岡空港で、当時は米空軍の板付基地がありました。近くに住んでいた私たちは、ボーイスカウトの交流で基地内の住宅地に招待されたのです。テレビでしか知らなかった、あの「豊かな国」が本当にそこにありました。そのとき食べさせてもらったアイスクリームの美味しかったこと。芝の緑の色鮮やかだったこと。 

 時は1960年代の末ちかくです。泥沼化したベトナム戦争が激しさを増していた頃です。板付基地からの直接の出撃は無かったと思いますが、北爆で使われたであろうB52爆撃機が天候の関係で板付基地に飛来したのも見ました。空地で缶けりをしていると、頭上を超音速の戦闘機が訓練飛行をしていました。
 それから思春期へと入っていった私は、「カッコ良さ」からロックやフォーク、ヒッピーなどの対抗文化を受容したわけですが、それはまたベトナム戦争について学ぶ場でもありました。板付の米軍基地で見た緑の芝生のことも何度も思い返しました。
 一緒にアイスクリームを食べた基地の子供たちの父親は、ベトナムへ行ったのでしょうか。生きている人間の上に爆弾を落としたり、柩に入って帰ってきたりしたのでしょうか。
 私の子供時代が終わり、イマジンを聴く思春期になったのです。 


●思うのですが
 今の若者たちが内向き志向になっているのも無理からぬことと感じています。また「グローバル化」とか言っている大人の多くが、実は経済のことばかり気にしていることも知っています。
 しかし、思うのです。異なる世界に生きている人々についての想像力まで失ってしまってはいないだろうかと。遠くの人が流す血に無関心になってはいないだろうかと。 

 先月、フロリダ大学の学生さんたちと一生懸命会話をしていた法文の学生を見て、とても嬉しく感じました。来年はもっと大勢来てくれることになっています。こちらから行く機会も毎年あります。山東大学で中国の学生と討論する機会も、人民大学の学生さんと共同で農村調査をする機会もあります。
 広い世界に目を向けて欲しいと思っています。同じ人間が生きている世界だと知って欲しいと思っています。
 いつか、柩の前で悲痛な顔を見せる首相の姿がテレビに映り、尊い犠牲を無駄にするなと国民が熱狂することになるかもしれない、こんな時代ですから。 

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法文学部
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