学部長便り2015年10月号 影が綺麗な季節

公開日 2015年11月04日

 

 夜の虫の声も何時しか消えて、もう聞こえません。秋が深まっています。

 秋の空は澄んで高く、天頂あたりは宇宙の暗さすら透けて見えそうな濃い青。「蒼い」と言った方がよいのでしょうか。ところで、秋の空は綺麗だと皆さん言うのですが、同時に秋は影が綺麗な季節だとも思います。澄んだ大気と低い太陽のおかげでしょう。くっきりと斜めに延び、明暗だけでなく暖かみと冷たさの対比も際立つような影ができます。

 

国立大学法人17大学人文系学部長会議というものがあります。北は弘前大から南は琉球大までの地方国立大学の人文系学部の学部長が毎年10月に集まって、情報交換などを行なう会議です。今年は信州大が当番校だったので松本市でありました。

下の写真は、そのとき泊まったホテルの横にあった松本駅前のバスターミナルのビルです。

 

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7階建で、2階以上がショッピングセンターになっています。ご覧のようにこちら側の壁面には非常階段がついています。上の写真では階段は一部しか見えませんが、全部で10本以上あります。所々に黒い四角形が見えているのが店内からの非常口です。非常口も階段の数に合わせて随分たくさんあります。

 

 さて、この非常階段、なんだか不思議ではありませんか。

 一番右上の階段は、屋上から7階右端の非常口にしか繋がっていません。右端からグルリと回って向こう側の壁沿いに下へ向かっているかというと、そんなことはありません。行き止まりです。

 同様に、右上から二番目の階段は、屋上から7階と6階に行けるだけ、三番目は7階と6階と5階に行けるだけ、以下同様です。

これでは下手をすると店内に出たり入ったりしながら地上を目指すことになってしまいます。あるいは、下には逃げずに上に逃げろということなのでしょうか。

 

でも、そんなことはどうでもよいのです。この非常階段、影がとても美しいのです。

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 上は朝の写真で階段のステップの影で斜め縞。下は昼の写真で、手すりの影で縦縞模様です。太陽の位置によって、表情が変化していきます。一見したところ倉庫風の壁面ですが、建築家は影による動的な装飾を狙ったのかと、勝手に思ったりした次第です。

 

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 さてさて、といった話もやはりどうでも良くて、17大学人文系学部長会議の話。今年はこの会議名で文部科学大臣宛の声明を出しました。6月に文部科学大臣から、人文系学部の組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換を求める通知が来ました。今回の声明はこの通知に対する異議を表明するものです。島大法文学部のホームページにも掲載いたしましたので、ぜひ一読ください。

 

 秋の陽射しのなか、島大図書館の前では椅子たちも日向ぼっこをしていました。工業製品の椅子ですが、使い込まれると微かな個性が出てきます。低い太陽が作る秋の影はさまざまなものの個性を引き立てます。

影は見ようとしないと見えません。大学は学問の府です。学問は漫然としていては見えないものを見ようとする営みです。ノッペリとした人間など面白くありません。大学は大学らしくあり、そして自分自身のしっかりとした眼をもった人が育っていく場であって欲しいですね。

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