法文学部ピーター・チェイニ准教授の授業で伝統的な地元企業を訪問しました

公開日 2023年03月23日

 修士課程の授業において、学生たちが学外に飛び出し、地元・松江の美学を知る機会があります。学生たちが訪れたのは、森山勇助商店です。180年以上続くこの老舗で、蔵とそこで作られる醤油の中にユニークな美学を見出しました。もろみと木桶醤油の香りが漂う蔵を案内され、伝統的な醤油の製造工程を見学し、学生たちは五感で「知られぬ日本の面影」を見つけたのです。今回の訪問は、国際色豊かなものでした。今年度の授業履修者は、日本人学生に加えて、グルノーブル・アルプ大学(フランス)で経営学修士課程に所属し、島根大学に交換留学中のフランス人留学生です。蔵を案内してくれたのは、森山社長の奥様で、ドイツ出身の森山エミさんでした。学生たちの引率は、島根大学の文学・哲学の研究者である、イギリス人のピーター・チェイニ先生です。

 見学後、学生たちは森山エミさんの話を伺いました。その後、木桶醤油づくりの様々な点が、日々の生活における価値観をいかに反映しているか、例えば、有機的なプロセスの重要性、ゆっくりと時間をかけてしょうゆの豊かなうま味と濃い色合いを引き出すことの利点、さらには意図しない結果を前向きに受け入れることで得られるラッキーなことなど、について学生たちはレポートを作成しました。鉄のタンクではなく、創業時からずっと木桶を使い続けているのは、酵母菌を育てる唯一の方法なのです。蔵は杉でできているため、蔵そのものがひとつの巨大な木桶のようであり、香りのよい酵母菌が蔵いっぱいに充満しています。

 

 現代の鉄のタンクを使用した醤油が数カ月程度で絞れるのに対し、この伝統的な木桶しょうゆづくりは1年もの時間がかかります。森山勇助商店では、そこからさらに時間をかけます。看板商品である「木桶魂」は、1年経つと濾し、新たな原料を加えて再醗酵させ、豊かな味わいを生み出します。学生たちは試飲させてもらい、その芳醇な味を堪能しました。また、偶然の産物である7年ものの醤油も製造しており、このことは、計画されたものではなかった工程を歓迎する蔵の姿勢を反映しています。ある年、例年より寒い夏だったために、十分に発酵しなかったことがありましたが、7年目に奇跡のように生き返ったそうです。それ以来、その木桶と酵母菌を使って7年物の醤油をつくっています。

 

 この授業では、チェイニ先生の著書で、日本の伝統的な美意識である、有機的なもの、不完全なものを受け入れること、無計画なものを受け入れることの文化的な利点を探求した書籍、 『芸術と日常生活における不完全主義美学』(原題:Imperfectionist Aesthetics in Art and Everyday Life、Routledge出版社、London and New York、2023)など、美学に関するテキストを用いて学習します。詳細は島根大学法文学部ホームページをご覧ください。
https://www.hobun.shimane-u.ac.jp/docs/2022102800010/
なお、本書は現在日本語版を制作中で、東京大学出版会から刊行される予定です。

 

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