学部長便り2018年7月号  山陰研究センター・シンポジウム“「地方創生」再考”

公開日 2018年07月27日

 

630日、法文学部山陰研究センター主催のシンポジウム“「地方創生」再考――島根のこれからを考えるための新たな視点――”が開催されました。
激しい雨の中にもかかわらず、100人を超える方々が来聴下さいました。

政府による「地方創生」の掛け声のもと、各自治体が競って種々の「創生」政策に取り組むようになって、すでに3年以上が経ちますが、それが果たして住民の生活感覚や実際の目線に合致したものになっているのだろうか、という問いが、このシンポジウムの根底にあります。

最初は、大阪大学の吉川徹先生の基調講演「島根県のローカル・トラックと関係人口」でした。松江市のご出身で社会学がご専門の吉川先生は、島根県の人口の動きの全体像を大きなスケールで捉えながら、そこに読み取れる諸問題を指摘されました。

吉川先生によると、島根県の出生率は全国3位、しかし問題は、年間1千人以上の人が県外へ出て行ってしまうこと、特に、18歳で大学進学等を機に県外へ多くの人が出て行ってしまうことが問題だとされました。要するに島根県は、県費を投入して優秀な人を育て県外へと送り出し、県内には定着しないという構図になっているということです。また、せっかく地元の島根大学に進学しても、就職は県外でと考える人が多いことも指摘されました。これは現在の島根大学にとっても大きな課題です。

これらの実態を踏まえて、吉川先生は、一旦県外へ出た大卒層を、3040歳で島根にポストを用意してUターンしてもらうような体制を作ることを提言されました。お話を伺って、確かに、本当は島根に帰りたいと思っている人々が、島根県は自分を待っていると思えるようになれるための方策は必要だと感じました。

続いて、地域に密着して活動をされている3名の方々から報告が行われました。
まずローカルジャーナリストの田中輝美さんが、「関係人口」に注目すべきことを説かれました。定住というとハードルが高い、観光で訪れるのは一過性で終わる。その中間を狙うのが「関係人口」なのだそうです。
田中さんが取り上げられたのは、2012年度から島根県庁が首都圏で開講してきた「しまコトアカデミー」。「自分は島根と関わりを持ちたい」と思っている人がいる。そういう人たちのために、連続講座やインターンシップなどを行いながら、自分独自にデザインしたビジネスや活動を島根で実現することをめざすという取り組みで、既に効果が上がっているということです。

小さな拠点ネットワーク研究所・代表理事の白石絢也さんは、島根県邑南町が創生の柱に掲げる政策を実現するにあたり、公民館エリアの12の地区を単位として、それぞれの地区の人たちが自分たちの地区に密着した企画を行い、活動をしていることを紹介されました。正に「地に足の付いた」方法だと感じました。

株式会社Community Careの中澤ちひろさんは、島根県雲南市において、訪問看護で在宅医療を守る、また医療・福祉の若い担い手のネットワークを作るなどの活動をされていることを報告されました。

以上の講演と報告を踏まえてのパネルディスカッションで、法文学部の片岡佳美先生が述べられたコメントを、私は深くうなづきながら聴いていました。――
地方創生は、政府が、人口減少への歯止め、東京一極集中の是正を目標に掲げて始まり、自治体側は、雇用創出数、Uターン受け入れ数、縁結びサポートによる婚姻数など、数値目標の達成を迫られながらここまで来た。
しかし国のためとか言う以前に、忘れてはならないのは、そこに住んでいる一人一人のことではないのか。それぞれ顔や名前を持った、生きた人々のこと。

以下、ディスカッションで交わされたコメントの中から。――
「“その人らしく生きる”を支えたい。」「最初は国から言われてだったかもしれないが、やがて住民が自分たちで考えて動かすようになってきた。」「経済の発展のためとかより、一人一人の生活のため。原点は“そこに人がいる”ということ。」「都会は都会でいいところがある。その一方、地方だからこそできることがある。楽しみながら関わっていけるようなことがある。」

「人間」に立ち戻る、というところに収束した意義深いシンポジウムでした。高校生を含む広い年代の方々が参加下さり、共に自分たちの住む地域の将来像について考える場となりました。

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