学部長便り2019年7月号  中村元と増田渉(その1)

公開日 2019年08月01日

 

622日、島根大学で、講演会「山陰が生んだ知識人たち―中村元と増田渉―」を開催しました。松江市八束町(大根島)にある中村元記念館、島根大学附属図書館、それに法文学部山陰研究センターの三者共同開催です。

前半は、中村元記念館の笠原愛古学芸員が、「中村元博士の生涯と思想」と題して講演されました。中村元(なかむらはじめ、1912-1999)は、松江市に生まれ、東京大学教授を務め、インド哲学、仏教学の世界的権威として大きな業績を残し、文化勲章を受けた人です。

笠原さんの講演を聴いて、私は次のような点に注目しました。中村博士は少年時代、大学の日本史学の先生であった叔母・高橋すえ子さんから勉強を教わっていた。そして、「今、国語をよく勉強しておきなさい。試験だけではなく、将来のためにも必要なことなのだから」と教えられたそうです。
私はこの教えは大変深みのあるものだと思いました。国語を学ぶというのは、決して単語や文字を覚えて技術的に使えるようになるということではなく、一つ一つの言葉の含み持つ意味を理解し、またそのことに立って論理的に物事を考え、そして表現するという営みなのだ、ということを言われたのではないでしょうか。

博士はその後東京大学で和辻哲郎、宇井伯寿らの教えを受けながら、学問を大成し、インド哲学、仏教学のみにとどまらず、中国・日本も含めた東洋思想、比較思想にまで自身の専門を発展させます。ただしそうした中にあって、仏教の思想を平易な日本語で表すことを追求し続けたそうです。
仏教で言う「慈悲」を、「温かなこころ」という易しい日本語で表現することを説きました。――そうすることで、思想の芯の部分が理解できるようになるのですね。中村元は、“言葉の人”であったと思われ、叔母すえ子さんの薫陶はずっと生きていたのでないかと推測しました。

そして中村博士は、世界平和のための研究へとたどり着いたとされます。この「温かなこころ」こそ、あまねく広く世界の人々に備わっているものである。「人を損なわない、傷つけないという教え」「共に生きるという温かな理想」とも説いています。

現代社会の状況を考えると、中村博士の学問と思想に学ぶべきところは非常に多いように感じます。中村元記念館では、博士の生涯や種々のエピソードに詳しく触れることができますので、ぜひ訪ねてみて下さい。 

さて、後半は、法文学部の内藤忠和准教授(中国文学)による、「日本文人の上海体験―増田渉と魯迅を中心に―」の講演でした。これについては、回を改めてご紹介したいと思います。

  

左端で司会をしているのが田中。
雨天にもかかわらず、多くの方々が来場され
熱心に聴いて下さいました。

 

 

 

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