学部長便り2019年11月号  文楽に思う

公開日 2019年11月27日

1116日、17日、私の日本文学の授業を履修する学生たちと一緒に、大阪の国立文楽劇場を訪れました。 

私たちが人形遣いの桐竹紋臣さん、紋秀さん、紋吉さんにご指導いただいていることについては、昨年8月号に紹介しました。今回も、開演直前にもかかわらず、多くの興味深いお話と実演をして下さいました。

最初に紋臣さんが、文楽の人形の特徴について重要なポイントを解説して下さり、そしてそのあと「学校」が開かれました。

文楽では、三人遣いと言って、1人の人物の人形を、3人の人形遣いが動かします。人形の首(かしら)を遣う「主遣い(おもづかい)」、左手を遣う「左遣い」、足を遣う「足遣い」です。
この日、我々の中から‘代表選手’が前に出て、紋臣さんのご指南を受けながら「足遣い」の稽古をしました。人物が、姿勢を正して立ち上がり、右左右…と地を踏みしめながら歩いていく。――これを本当にそうしていると見せるには、並々ならぬ苦労があることがわかります。左右の足が、的確な位置に、的確な形で、そして的確なタイミングでそこへ来ないと、人間の動作として見えないのです。

こうして立ち上がり歩くだけの動作でも大変なのに、実際の文楽の舞台では、複雑な動きや素早い動きも多々出て来ます。どれだけの稽古を積んでようやく舞台に立てるのか、芸の重みと深みということに、改めて思いを遣りました。

舞台裏見学では、紋秀さんが、文楽独特の「舟底」と呼ばれる、下へ掘り込んだ形の舞台のこと、人形遣いが舞台下駄を履いて自分の体の高さを調節して、人形を手摺りの上へ差し上げて遣うことなどを解説して下さいました。
また、文楽は現在では古典芸能と呼ばれるけれど、江戸時代の人々にとっては、今の我々がテレビを見たりマンガを読んだりする時の感覚と似たものがあったと思われます、という紋秀さんのお話が心に残りました。
人間の心や生き様と正面から向き合い、そこに“生きた人間”が描き込まれている。その人物は、我々の近くに本当にいそうに思える。だからこそ、時代を超えて現代の我々の心にも訴えかけてくるのだろうと思いました。

今公演の演目は、「仮名手本忠臣蔵」と「心中天の網島」。時代物と世話物の大作をじっくり鑑賞しました。
今回も、研究室の卒業生で関西ご在住の永田まち子さんにお世話になり、法文学部前身の文理学部時代の大先輩、それに近年の卒業生も合流して下さり、賑やかで楽しい研修旅行となりました。

 
         桐竹紋臣さんのご指南で、足遣いを稽古する


「心中天の網島」の舞台。桐竹紋秀さんのお話を聴く

 

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